だれが舵取りをするのか

だれが舵取りをするのか【転送歓迎】

宮内勝典/海亀通信http://pws.prserv.net/umigame/



わたしは政治については素人だが、どうしても黙っていられないことがある。地震津波原発事故など、わたしたちはいま壊滅的な事態にぶつかっている。世界史においてもまったく類を見ない出来事だろう。いまも放射能が洩れつづけ、積乱雲が湧きたつ青空に漂っている。

おそらくいま世界中の人たちが見守り、耳を澄ましているにちがいない。科学先進国ジャパンで、三基の原発メルトダウンするという最悪の事故が起こった。地震津波で破壊されたが、きっと復興するだろう。ヒロシマナガサキに原爆を投下されながらも、わずかな年月で経済大国へ成長していったように。さらに人類史的な曲がり角に立たされている日本人が、現代文明のありようについて洞察に満ちた声を発信してくるはずだと。

だが現実はちがう。これほどの大惨事に対してどうすればいいか、途方にくれているのが実状ではないか。国政を担う人たちが目の色を変えて復興に取り組んでいる気配はない。福島の小学校では、汚染された土を削り、校庭の片隅に山積みしてビニール・シートをかけたまま、長いこと放置されていた。なんという事だ! 放射能の影響を受けやすい子どもたちがすぐ近くにいるのだから、まっ先に撤去しなければならないはずだ。そうした基本的なことさえ為されていない。まるで無政府状態に陥ってしまったようだ。

その間、政治家たちが何をやっていたかというと、内閣不信任案を提出したり、大連立を画策したり、そんな愚劣なことばかりだった。わたしは決して菅首相を支持しているわけではない。典型的なポピュリスト、大衆迎合の人ではないかと疑っている。脱原発自然エネルギーへの転換に異論はないけれど、本気で実行しようと決意しているわけではなく、ただ大衆の支持をあてにして政権を延命さようとしているだけではないのか。大衆もそれを見ぬいているから、支持率は低下しつづけている。脱原発と言いながら、一方で玄海原発を再稼働させようとしたり、ストップをかけたり、もう支離滅裂である。

さらに呆(あき)れるのは、この大惨事を政局に利用しようとする政治家たちの動きである。首相を降ろして何をやろうというのか、どうやって復興したらいいのか、そんな声も意志も皆無に等しかった。おそらく原発を維持して、電力会社との甘い蜜月関係も保ったまま、旧態依然とした日本に戻すつもりだったのだろう。もうそんな事態ではないのに。

罹災(りさい)した人たちは、政治家たちに絶望していることだろう。がれきの山に黙々と取り組む姿に、わたしたちは胸を揺さぶられる。牛に食べさせるものがないと嘆く福島の老人に涙するしかない。船を失った漁師たちの悲痛な声も聞こえてくる。

だが政治家たちは答えない。相も変わらず、政争に明け暮れているばかりだ。この難局を乗りこえて、この国をどう再建していくべきか、その方向性も大きな計画もなさそうだ。

かすかな希望を与えてくれたのは、ソフトバンク社長の孫正義氏が打ち上げる太陽光発電のプロジェクトだった。週刊誌には、孫正義氏を中傷する記事があふれている。政治的な野心があるとか、ビジネス・チャンスを狙(ねら)っているだけだとか。さらに在日という出自まであげつらう。心意気もなく、ただ醜い嫉妬があるだけだ。「恥を知りなさい!」と言いたくなる。100億円を寄付したり、引退するまで役員報酬をいっさい受け取らず寄付するという覚悟は、決して生半可(なまはんか)なことではない。屈することなく、ぜひとも太陽光発電を軌道に乗せてほしい。ビジネスとして成功させながら、安全なエネルギーへ転換させてほしい。

津波で陸地に押し上げられた大きな船が胸に浮かんでくる。この国は難破船のようなものだ。もう政治家や官僚をあてにすることはできない。わたしたち民間人や、民間企業が梶(かじ)を取っていくしかないのだろう。
北海道新聞 8月6日)