満月とバウル・クレー

満月の時は、口を大きく開けて天に向けたら、ホットケーキが落ちてくるよ。


昨日の夜は、本当にきれいな満月だった。おぼろ月夜。はっきり見える満月よりもおぼろ月夜のほうが天空の空気を感じることが出来るから好きだ。満月の夜、街灯が消えたらどんなに素敵だろうか。月夜の光の中、帰り道を歩きたい。

最近、山を歩く機会を多く頂く。無心になって山を歩く。歩き始めてしばらくは、足が山に慣れるための時間を要するが、しばらくするとあらゆる五感に余裕が生まれて観察力が芽生え、更にしばらくすると陶酔状態になることがしばしばある。都心で同じような経験をすることはほとんどないけれど、芸術に触れている時に似た感情を持てるのだと思った。



《花ひらいて》1934年/"Blühendes" 1934,199Winterthur, Kunstmuseum Winterthur, Bequest of Dr. Emil and Clara Friedrich-Jezler, 1973© Schweizerisches Institut für Kunstwissenschaft, Zürich, Lutz Hartmann


昨日は、国立近代美術館へ「パウル・クレー|終わらないアトリエ」展を見に行った。クレーの絵を見ることができたのは、2002年の鎌倉近美以来に思う。前回は旅先での絵(山や建築の絵が多かったと記憶している)だったのに対し、今回は彼のアトリエから生まれた技法をいくつかに分類し、構成している。構成に対しては割愛するが、200点近いクレーの絵を見ていると、陶酔状態に陥り、時には涙が出てくるのだ。優しさ、哀しみ、冷たさ、暖かさ、森、土、空、水、動物、人間、都市、自然、宗教、思想、文明、音、光、過去、未来……あらゆる要素を感受し、自分の感受性のキャパを越えてしまう。絵そのものに、命を感じる。嬉しいだけではなく、哀しみも含んだ幸せを胸に抱いた。

3時間はいただろうか。平日の昼間でも、導引数はとても多い。所蔵展では、ヨハネス・イッテンのリトグラフや、石元泰博の「桂離宮」も見逃せない。多和圭三さんや戸谷茂雄さんの作品や、畠山さんの「川の連鎖」、土沢へ通う私に対してのメッセージとして萬鉄五郎の「裸体美人」などを見れたのはとても嬉しいこと。久しぶりに満足した美術館だった。