坂倉準三展

水曜日、ふと鎌倉と横浜へ出かけた。坂倉準三展と横浜の原口典之展のため。梅雨入りしたにもかかわらず、鎌倉には日が差し、風もある。お散歩には気持ちいい気候だった。小町通りに好きな古本屋がある。串田孫一でおなじみの古本屋。今回は宇佐見英治の本を購入。ジャコメッティについての本は熟読していたけど、この本は随筆集。タイトルも気に入ったし、内容も少し立ち読みしただけでぐいぐい引き込まれた。加えて島尾敏雄さんの本も購入。「宇佐見さん、このお店にもよくいらしてくださったんですよ。」と、ご主人。私は、このご主人の落ち着きが好きだ。一歩外に出ると、小町通りは観光客と修学旅行生で溢れていて、その声や足音を眺めながらもゆったりとしている。小町通りもだいぶ変わった。お店が増えたし、お店の質も落ち着きのないものに変わっていた。でも、この古本屋だけは変わらない気がする。

さて、鎌倉近美(神奈川県立近代美術館鎌倉館)へ出かける。企画段階から三本松さんに少し話しを聞いていたから楽しみにしていた。この美術館を建てた建築家・坂倉準三は日本を代表する建築家と言っても過言ではない。ル・コルビュジエに師事し、モダニズム建築を実践した坂倉は、新宿駅西口や渋谷駅銀座線を取り込む東急デパート、東急文化会館とそのコンコースは誰もが知っているだろう。坂倉準三の創った道を歩いて、私は学校に通っていた。ゴルビジェやペリアン、吉村順三の名前も出てきて、彼(彼女)らの建築と比較しながら模型と図面を眺めていた。

新宿西口タクシー乗り場の空気孔は、なぜか愛着がある。いまでは蔦で覆われていて坂倉特有のタイルは見えないが、あの変な形は小さい頃から大好きだった。都市をどうにかして写真で捉えようと新宿を歩いていた大学卒業後の畠山さんは、しっかり83年に(おそらくスバルビルから)撮影している。今回その写真も展示されていた。(写真作品としてではなく、資料として展示された初めての写真ではないかな……)

しかし、この数年はその都市の姿も変わりつつある。無機質で明るく均質化されたデザインばかりが目立ち、「格好良い」と思える建築は少ない。高校時代通っていた五島プラネタリウムが入っている東急文化会館も壊され、渋谷駅東口は古い歩道橋を除いて跡形もない。東横線のホームが副都心線接続により地下へ移行するのも時間の問題だ。タイルの円形模様だった新宿西口の地下道は、いつの間にかグレーのタイルに変わっていた。

幼少期に馴染んでいたものが、少しずつだけど大胆に変わる。それだけ世間の価値観が変わり、私も年齢を重ねているのだろうか。展覧会の幸福感の裏には現実の寂しさがある。



宇佐見英治の本にも島尾敏雄の本にも「宮澤賢治」が出てくるから嬉しい。忙しいのと気持ちが焦っていて、自分自身見苦しいけれど、この本2冊に救われている。



あの願い事、叶いますように!あっ、鶴岡八幡宮の蓮は少し、咲き始めていました。

なにを願いっていたんだろう、忘れちゃった。2010.4